カネなし生活へ
アイルランドで4年間、経営学と経済学を学んだ後、6年にわたってイギリスで複数のオーガニック食品会社の運営に携わった。オーガニック食品業界に身を投じたきっかけは、大学生活最後の学期に読んだマハトマ・ガンディーの本だった。
「世界を変えたければ、まず自分がその変化になりなさい」
このガンディーの言葉が琴線に触れた。ところが、世界をどう変えたいのか、その頃にはわかっていなかった。オーガニック食品を扱う仕事は倫理的と思われた。しかし、オーガニック食品業界もまた、従来の食品業界と同様の問題を抱えていた。遠隔地から空輸される食品、幾重ものビニールパッケージに包まれた「お手軽」な商品、大企業による小規模独立業者の買収などには、幻滅を禁じ得なかった。
環境破壊、工場畜産、資源争奪戦争。病んでいる地球の諸症状の原因は、消費者と消費される物との間の断絶にある。我々が皆、自分で食物を育てる必要があれば、その1/3を無駄にすることはしないだろう。無意識に行っている日常的な買い物は、ずいぶんと破壊的である。生産過程を目にしなければ、生産者と顔を合わすこともないからである。
消費者と消費される物との断絶は「お金」が出現したからである。
2008年、どういう「変化」になりたいのかがわかってきた。今よりお金に重きを置かない世の中にしたいと望むなら、まず自分が金を使わずに生活してみて、そんなことが可能かどうか確かめたらいい。
カネなし生活の準備
以下のインフラを事前に整え、生活の準備を行った。
・住居:「フリーサイクル」のサイトに投稿し、無償でトレーラーハウスを入手
・エネルギー:缶のリサイクル材でストーブを製作、ソーラーパネル購入
・食料:採集、ゴミ箱あさり、自家栽培、バーター取引の4つで調達
・交通:自転車
・通信:農場敷地内の無線LAN
カネなし生活の教訓
何をするにも時間がかかるようになった。洗濯するにも、自分で石鹸を作らなければならない。一杯のお茶を淹れるのに約20分。寒くなっても、薪割り、たきつけ拾い、紙探し、火おこしがあって、やっと火がつく。
冬は、ほとんど毎日、昼間でも氷点下の気温で、夜になれば−6℃まで冷え込んだ。一方、夏に過ごした時間は素晴らしかった。
一年のカネなし生活をやり抜いた。困難の日々であったが、見方を変えれば、人生で一番幸福な時であった。人生はいつだってなるようにしからならない、完全に不完全なものである。この事実に身を委ねた後は、カネなし生活の不便は楽しみに変わった。
カネなし生活から学んだ最大の教訓は、人生を信じることであった。自ら与える精神を持って日々を生きれば、必要な物は必要な時にきっと与えられる。何かする時にお金を利用するのは一つのやり方に過ぎない。