消費税率を5%引き上げても、国債発行額は2年間で元に戻る
2012年1月、政府は「社会保障と税の一体改革の素案」で、現在5%である消費税の税率を、14年4月に8%、15年10月に10%とすることを決めた。
消費税率5%の引き上げで、国庫に入る税収は10兆円増える。ところが、社会保障費や国債費など歳出の増加を考慮すれば、公債発行額の減額は2兆円強にとどまる。国債残高は毎年30兆円強増加する。したがって、国債費は毎年1兆強増加する。このため、2年後には国債発行額は元の数字に戻ってしまう。
つまり、消費税を5%引き上げても、財政収支改善効果はほとんどない。今後は、社会保障費と国債費が3年で5兆円程度ずつ発生する。これには、今後消費税を3年ごとに2.5%ずつ引き上げることが必要になる。
税率引き上げ幅が10%の場合でも、30年後の財政状況は現在とあまり変わらなくなる。消費税率を30%にすれば、財政赤字はかなり縮小する。しかし、これは政治的にほぼ不可能である。
国債の国内発行は、2020年代に行き詰まる
「日本には1400兆円を超える個人金融資産があるから、国債消化は大丈夫」という考え方は間違いである。個人金融資産は、すでに銀行預金として運用され、貸付や国債の購入に充てられている。
これまで日本の国債が順調に進んできたのは、企業の資金需要が減退したためである。銀行が企業向け貸出を減少させ、増加した国債の大部分を購入してきた。しかし、これはいつまでも継続できるメカニズムではない。金融機関の貸付がゼロになった段階で、国内消化は不可能になる。
経済危機後、新規国債発行額は50兆円を超す水準になっている。民間金融機関の住宅貸付以外だけを考えると、10年末の貸出残高は532兆円。現状の国債残高の推移から、2028年頃には破綻する。当然、マーケットがここまで待ってくれる保証はない。
財政赤字問題を解決する方法
財政再建できない原因は、家計貯蓄の減少と社会保障支出の増加にある。これらはいずれも人口高齢化によってもたらされる。財政赤字問題を解決するには、以下の取り組みが必要である。
・年金制度の抜本的見直し
今後も高齢者数の増加により、社会保障給付費の増加は避けられない。厚生年金の積立金は2030年頃に枯渇する。支給年齢を70歳を超える年齢まで引き上げる必要がある。
・社会保障制度がカバーすべき範囲の見直し
公的セクターがカバーすべき社会保障の範囲を再検討し、財源の裏付けをはっきりさせることが必要である。公的医療保険の役割は縮小させ、民間利用による医療・介護分野の経済発展を促す。