カヤックの原点
カヤックは1998年、慶應義塾大学を卒業した柳澤大輔、貝畑政徳、久場智喜の3氏が集まり、出資金3万3000円の合資会社として出発した。創業当初から企業のホームページ制作などを手掛ける傍らでオリジナルのサービス開発にも注力し、その後2005年に株式会社化。その頃から成長軌道に乗り、2010年末には社員約130名、売上高16億円の規模になっている。
1998年の夏、3人が事務所を構えたのは江戸川橋の雑居ビルの一室である。ここで自社サイトを作り「ホームページの制作、請け負います」といった情報発信を始めると共に、知り合いの広告代理店などに仕事紹介を依頼した。
当時の3人の給料は月5万円程度。一緒に住んでいたアパートも狭く、3人が「川の字」になって寝ていたという。
こうした濃密な時間を共有する中で、常に3人の頭にあったのは「自分たちにしかできないことは何か、どうやったら他と違うことができるか」という問いであった。やがて「クリエイティブなものをつくって世の中に出したい、それは決して金銭的成功のためだけではない」という価値観を共有し、カヤックという組織の原点を固めていった。
矛盾を生み出す3つの要素
カヤックの着実な経営の根底にあるのは独創的な組織づくりである。いわば「事業戦略」ではなく「組織戦略」によって成長してきたのが大きな特徴である。
①「誰と一緒にやるか」を重視
メンバー選択とお互いの理解にかける時間やコストは、極めて大きい。社内関係者全員の個人ページを設け、自己紹介したり、社員採用にあたっては、面接を通常3回、時には7回ほど行う。
②コミュニケーションの「しくみ化」「見える化」を徹底
毎月の給与明細に社員がお互いを褒め合う短い言葉が記載される「スマイル給」、自己評価と他者評価、さらに他者評価を本人が採点し、全社員に公開する「カヤック流・360度評価」。社内コミュニケーションは、業務効率化の手段ではなく、それ自体を目的としている。
③サービス、組織まですべてにオリジナルを求める
「面白い仕事を面白い仲間と一緒にやる」という意思表示のもと、「面白い」ことについてどこまで創意工夫できるか。その追求は極めて真剣で自己鍛錬の厳しさについていけない社員は脱落もやむなしとする風土がある。
「人」を重視し、メンバー同士の信頼を育み、互いに真剣勝負の緊張感をもたらす。「コミュニケーション」を重視し、風通しを良くし個性と個性のぶつかり合いを促す。「オリジナリティ」を重視し、共通の価値基準を与えると共に絶え間ない変化へのモチベーションをかきたてる。
カヤックの組織には絶え間ない「揺らぎ」が発生している。その組織は矛盾のように見えつつも、同時に成長の原動力のように映る。