アートは数字上の能率だけでは扱えない。サザビーズでは、社員の行動は、どこか回遊魚的なところがある。一見、無意味に思える行動が、やがてビジネスとして実を結ぶ。サザビーズは、日本の企業にとって様々な意味でヒントになる会社である。
サザビーズのアートな仕事術
・絵画の査定価格が決まる過程
「スペシャリスト」と呼ばれる社員が、価格を決める権限を持っている。複数人が率直な意見を簡潔に言い合う。構図、色彩、サイズ、作品の持つインパクトなど、他の作品との様々な比較がされ、あうんの呼吸で、またたく間に意見が一致する。こうして、数分の内に数百万ドルの査定価格が決まる。部長は決まった数字を紙に手書きし、その作品の資料が入っているクリア・ファイルに入れるだけである。
サザビーズの実態は、会社というより、中世のギルドに近い。互いの知識や技能を信頼し合う、古めかしいような素朴さを土台に、仕事が進められる。こうした組織の最大の利点は、スピーディーであること。一見、前時代的なようだが、実は合理的である。
・社員のあり方
社員のあり方もユニークである。カタログ作りから始めて、マネジメントまで叩き上げた人もいれば、先祖代々働いたことがなく、自分の代で初めて働くのだという貴族出身の人もいる。サザビーズでは、出世して、マネジメントすることをすべての社員が望んでいる訳ではない。コレクターとコレクションの今後の方向性を話し合ったり、オークションの出品作品を探すことに専念したいという人も少なくない。
・奇妙な採用
コレクターその人が採用されて社員になってしまうこともある。そういう人は、確かな鑑識眼や豊富な知識はもとより、コレクター心理の理解が強みである。突出したポイントが一つあれば、キャリアなどはあまり問わない。
サザビーズのようにアートを取引する仕事は、とらえようによっては趣味が発展したビジネスともいえる。そのため、顧客との付き合いも、同じ趣味を共有する仲間としての側面が強い。顧客のライフスタイルへの理解力が一番重要である。
サザビーズのビジネスモデル
オークションの手数料は、買い手が支払う手数料は5万ドルまで25%、そこから100万ドルまで20%、100万ドル超は12%。この手数料は誰に対しても変わらない。出品手数料は、作品の重要性に応じて10%を上限にケースバイケースである。不動産手数料の売買合計6%に対し、すごく高いと思われるかもしれないが、実際は個別マーケティングの手間隙を考えると、極めて労働集約的なビジネスである。
オークション会社の悩みは「質の高い作品」の不足である。需要の増加に対し、増産するのに10年単位以上かかるビジネスである。サザビーズも出品作品の確保に、かなりの経営資源と時間を使っている。