生産過剰が問題
新興国が経済発展を始めると、食料需要が高まる以上に農業の生産性が上がっていく。経済発展により、化学肥料を購入できるようになり、用水路などのインフラ整備が進み、政府の支援も手厚くなる。21世紀はますます生産過剰になり、世界の農民を一層貧しくする。食料危機に陥ることは無く、過剰生産が問題となる時代である。
各国から学ぶ農業
・ロシア
旧ソ連時代に、ロシアは世界最大の穀物輸入国だった。それは、社会主義の下で行われる農業の効率が悪かったからだ。しかし、市場主義に転じると、輸出国に変わった。農業生産は気候や風土が決定していると思いがちだが、実は社会システムなど人的要因の方がずっと大きい。
・ブラジル
日本の約23倍もの国土面積をもつブラジルの大地は大きな潜在生産力を有している。熱帯雨林を破壊することなく、セラードと呼ばれる半乾燥地の開発だけで現在の世界の大豆生産量に匹敵するほどの大豆生産が可能である。
・中国
2008年の中国のトウモロコシ純輸入量は日本の4分の1程度しかない。また、急速な経済発展により大豆は日本の約10倍を輸入するようになったが、大豆の需給は逼迫せず、市場価格には影響が無かった。中国は既に食料需要が飽和状態に達しようとしており輸入大国にはならない。
・インド
2008年に食料価格が急騰した時、インド政府は穀物の禁輸を宣言した。しかし、実際は650万トンもの穀物を輸出していた。おそらく、穀物が国内消費だけでは余りすぎて、国内マーケットの暴落を恐れたために輸出せざるを得なかったのだろう。
日本の農業の進むべき道
・オランダ型農業がお手本
日本の約9分の1に過ぎない国土面積でありながら、オランダは農業で大きな利益を上げている。オランダは輸入額も大きいが、輸出額も大きい。つまり、畜産用の飼料を輸入し、畜産物を輸出するという加工貿易を行っているからだ。しかも、オランダの食物自給率は18%に過ぎず、日本の半分程度しか無い。
日本の農業の問題は、輸入が多いのではなく、輸出が少ないことである。加工貿易モデルを確立し、付加価値の高いブランド農作物を輸出すべきである。
・原発事故への対応
チェルノブイリの事故後、ウクライナは穀物の輸入国であった。しかし、1992年には輸出国へ転じており、マクロ的に原発事故の影響はウクライナ農業に深刻な影響を与えることはなかった。福島原発の影響も長期にわたり悪影響を及ぼすことないだろう。
・ TPPへの対応
日本農業の未来はオランダ型のモデルにしかなく、自由貿易は欠かせない。コメが大きな障害になっているがこれを例外にして、貿易の自由化を行えば良い。自由化後に想定される日本のコメの市場規模は9000億円程度にしかならず、諸外国は興味を持っていない。