デザインとアイデンティティ
今日、私たちが生活する室内に集められた膨大なものは、自身がつくり出したものではなく、商品として購入したものがほとんどである。従って、誰もが、同じものを室内に置いており、そこに個々人の違いは読み取れないのではないかという気がする。
しかし、所有された商品は、人それぞれ、様々なやり方によって、固有のものへと再編されていく。そこに人々の固有性(自己表象)を見ることができる。
私たちが身に付けるものや室内に置くもののデザインに気づかい、こだわるのは、少しでも「心地良い」生活をつくるためである。さらに結果として、そこに自身の姿が投影されるからであり、自分の内面が反映されるからである。
デザインとは何か?
デザインは多様な要素の複合的な関係の中で成り立っている。社会や経済、技術、産業、あるいは人々の思考や感覚などの複合的な関係の中で生まれてくる。
私たちが何かをデザインする要因・動機付けには、以下の視点がある。
①「心地良さ」を求める
私たちには、わずかでも「居心地の良さ」を求めるという根源的な欲望がある。少しでも心地良くあるいは快適に過ごすために、家具や食器、日用品を選び、工夫して使っていく。
②環境、道具や装置を手なずける
私たちは、自然の事物や既製の人工物を有用なものとして見出すだけでなく、そこに人為的な工夫をする。自然や道具、装置を手なずけていくことの実践がデザインの役割である。
③デザインは趣味や美意識と関わっている
私たちは古くから、日々の暮らしの中で使う道具や衣服、家具などに装飾を施してきた。人類の装飾を成立させているのは「秩序の感覚」に関わっている。ある特定の秩序や規範には、心地良く感じられる法則がある。
④デザインは地域や職業、階級の違いと結びつき、それらを表象する
私たちは、社会的な生活をしている。このことが集団的な約束事を生み出してきた。人間のこの特性がデザインに反映されていく。デザインは、地域や民族、職業、階級を差別化するために使われてきた。
デザインとは、誰もが等しく望む自由で心地良い環境を生み出すことの実践である。
心地良さ
私たちには「心地原則」というものがある。どれほど狭いテント暮らしでも、そこを少しでも快適にしたいという欲は誰にでもある。山でお弁当を食べる時、木陰を探し、座りやすい石や倒木を探し、居心地の良さを求める。
「心地良い」生活を支えるデザインは、時代の技術、時代の素材、経済的計画の他、新たな生活様式の提案や社会的要請、美意識などの感覚的な要素、市場的な条件などを考慮したものの中から出現する。