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2011/12/26更新

人はなぜだまされるのか (ブルーバックス)

231分

2P

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心の働きも遺伝が影響する

体形や行動形態の変化が遺伝によってもたらされていたとしても、心も同じように遺伝しているとは、思えないだろう。心の形成には、文化や教育などの生まれた後の経験が大きく寄与しているからである。
しかし、能力の個人差の遺伝的寄与は、推理や視覚化で4割台、言語や記憶で3割台という研究結果がある。心の働きは、体格ほど遺伝に影響しないが、性格や能力において無視できない影響がある。

人はなぜだまされるのか

集団行動をとる動物では、集団メンバーでの信念を共通化する仕組みが、模倣、言語と、次々に進化した。信念は誤りうるので確認作業が必要である。そのため、人間の祖先は、その確認作業が可能な適度な大きさの集団で生活していたと考えられ、100人程度であったとされる。

最初の人類が現れた約300万年前から、わずか1万年前まで、人間はずっと狩猟採集の生活をしていた。人間らしい心の働きが形成されたのは、ほとんど狩猟採集の時代であった。狩猟採集時代の人間集団は、互いに協力して食料を集めて分け合い、一致協力して敵と戦う密な協力集団であっただろう。

集団では、あるメンバーから新しい情報を得た場合、同じ情報を他のメンバーからも重ねて得ることがほとんどだろう。重ねて得た情報は集団で共通化すべき信念であり、それをすぐに信じるほうが、一致協力した強い集団になる。小規模の協力集団の中で私たちの心は「他者の話を信じる」方向に進化した。他者は協力集団のメンバーなので、まずは信じる方が集団として有利なのである。

最近の1万年間で人間の生活環境は大きく変わり、人口が急激に増加した。人間はそれまで、数百人以上の集団で生活することがなかったので、数百人同士が密な関係をつくる基本的能力が進化していない。そこで人間は文字を発明し、明文化された制度や契約によって、多くの人々の協力を築くようになった。しかし、1万年という期間では新しい心の進化がつくられるとは考えられない。

数百人以上の規模で交流が行われる文明社会では、社会全体にわたった完全な信念共通化は望めない。そのため、私たちは適切に疑う「懐疑の精神」を持っておく必要がある。懐疑は、進化で必要とされてこなかった技能であり、私たちは苦手とする。だから、練習して身につける必要がある。