戦略的直観と専門的直観
戦略的直観は、即断とも異なる。即断とは厳密に言えば「専門的直観」であり、過去の経験値から瞬時の判断を下す、瞬間的な思考の一形態である。人は仕事に順応するに従い、類似した問題をパターン化し、処理スピードを上げることができる。この瞬間、専門的直観が作用している。
一方、未知の世界に飛び込むと、脳はゆっくり時間をかけ、最適解を模索し始める。この際、直観的ひらめきは一瞬で起こるが、その瞬間が到来するまで、何週間も要することがある。しかし、専門的直観は、過去の経験と未知の世界の間に何らかの類似点を探し出し、戦略的直観の到来を待たずに即断してしまう可能性がある。
そこで未知の世界で戦略的直観を十分機能させるためには、専門的直観のスイッチを意図的にオフにすることが求められる。古い点同士のつながりを断って、新しい点同士が結びつくようにしなければならない。
戦略的直観の事例
戦略的直観の本質は、直観的ひらめきによって既知の情報が有機的に結びつく事にある。そのひらめきは、過去のバラバラな断片を結び付け、未来の戦略を構築する。
・コペルニクス革命
天動説の否定+天体観測データの活用+三角法の利用
・Google
アルタビスタ(全文検索)+学術文献の引用によるランク付け+データマイニング+オーバーチュア(キーワード連動広告)
・マイクロ・ファイナンス
村の貸金業者+薄利の仕事に就く貧しい女性
科学の進歩やイノベーションは、新たな理論を生む思考の飛躍ではなく、既存の発見を選択・融合させ、その発見を一つの新しい概念に昇華することでもたらされる。これは組合せのなせる業であり、何もないところからひねり出す想像の産物ではない。
戦略的直観=戦略の本質
戦略理論家のクラウゼヴィッツは、戦略的ひらめきが生まれる過程を4段階に分けて説明している。
①歴史の先例
②平常心
③ひらめき
④意志の力
専門的直観が個人の経験に立脚する一方で、戦略的直観は世界中のあらゆる人の経験を活かすことができる。広範な歴史の中から手本となる先例を探し出すのである。そして、将来の見込みや実行計画に対する過去の思い込みや目標そのものからも心を解き放つ。先入観から解き放たれた脳内では、様々な先例の中から選別された要素が新たに融合する。最後に意志の力が必要となる。
戦略とは、無から創造されるものではなく、また過去の成功例の単純なコピーも通用しない。戦略とは、過去の成功例の「創造的な組合せ」によってもたらされる。
しかし、創造的な組合せはいつ起こるかわからない。創造性を高めるには、脳の引出しに多くの情報を取り込み、これらの情報がつながるよう、思考を開放する必要がある。