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2011/11/25更新

不安定からの発想 (講談社学術文庫)

169分

6P

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ライト兄弟はなぜ空を飛べたのか

飛行機は、前後左右の他に上下運動があり、三次元空間の中で安定が要求される。運転の自由度は高いが、それは転覆、落下へつながる。

動力付き有人飛行機が1903年にライト兄弟によって成功するまで誕生しなかった理由は、軽いエンジンが未完成だっただけではない。先駆者たちが仮にガソリンエンジンを使っても成功しなかったであろう。

ライト兄弟は、それまで三次元空間を飛ぶ飛行機には、固有安定が必要であるという神話を破った。ライト兄弟の最初の有人動力飛行機フライヤー一号は固有安定どころか、放置すれば墜落する機体であった。墜落しなかった理由は、彼らが操縦したからである。ここにライト兄弟の「不安定の発想」がある。

これまでの飛行機の先駆者たちは、墜落を恐れるあまり、十分に固有安定をもたせた飛行機の実現に専念した。安定な飛行機は手放しでもある程度は飛ぶが、激しい変動に出会ったら、安定の限界を越えることがある。
また、安定の機体は舵の利きが悪い。舵をとることは機体の現状を変更することで、安定とは現状変化に抵抗する保守傾向である。ライト兄弟は縦、横の運動に十分利きの良い舵を考案した。

安定の放棄と積極的で効果的な操縦、これがライト兄弟成功の秘密である。安定にどっぷり安住せずに、釣り合いが乱れたら操縦によって取り戻せばいい、という思想がライト兄弟の基本理念であり、成功をもたらした要因である。

安定を放棄し自ら操縦せよ

ライト兄弟の行為の中には、この変動する社会を生き延びるための知恵が秘められている。我々の周囲はいまや不安定に満ちあふれている。
我々は安定という表現を誤って理解し、誤って使用していたのではないか。作り付けられた安定ですべてことたりる訳ではない。どんな安定にも有効範囲がある。

我々は人生、社会を手放し飛行機で飛んでいる訳ではない。我々は自分、会社、政体を操縦する能力があり、責任と可能性を持つ。人生や社会が安定であることは望ましいが、例え不安定であっても希望はある。

むしろ不安定な人生や社会を乗り切ろうとする時にこそ、積極的に変革しやすい。