限定合理性
人間は不確実な状況において、直感をもとにした推論メカニズムを働かせる。直感とは、我々が一所懸命に努力して考えるのとは対照的な、素早く働く考えのことである。
大体の場合、我々は直感的に物事を考えている。チェスの達人がゲームの形勢を瞬時に見抜くのも直感である。しかし、直感は高度なことをするが、バイアスやエラーを起こす傾向がある。つまり、人間は限られた認知・推論能力しか備えていない。
知覚の特徴
知覚とは、直感のもととなる、外界からの刺激を意味付けするメカニズムである。知覚には、直接利用できる特徴と直接利用できない特徴がある。
例えば、トランプ1枚の面積、1枚の厚みは、知覚によって得られる。一方、1組分のトランプ全部を足した面積はどのくらいか、という問いには、計算が必要であり、ぱっと見ただけではわからない。つまり、知覚によってわからない問題がある。
知覚には次の2つの特性がある。
①「変化」に集中し「状態」を無視する。
知覚表象(人間が感じる様々な感覚が脳内の連合野において分析的に統合されたもの)は、変化するもの、前とは違っていることに集中し、状態が同じであれば、そういう物事は基本的に無視する。
②足し算をすべき時に平均値を求めてしまう。
表象には、合計というロジックは含まれておらず、これを直感的に判断できない。一方、表象には平均値や典型的な値、極端な値は含まれている。
よって、人の決定や選択には、合計の代わりに平均値を当てはめることで、論理的に合計で評価すべき物事の判断に対してバイアスがかかってしまう。
プロスペクト理論
知覚の特徴の一つである「変化」に集中し、同じ状態を無視するというメカニズムは、経済学の行動理論にも応用される。
人は最終的な絶対量を評価することによって、決断を下している訳ではない。知覚は変化に対してはるかに強く反応する。
つまり、効用(満足度)を決めるのは「変化」であって、「状態」(富の絶対量)ではないという事が導き出される。
そして、不確実な状況で人がどういう行動をとるかについては、2つの予測を伴う。
①損失の領域、負の選択に直面した時にはリスクを追求する傾向がある。
②利得の領域、正の選択ではリスク回避的である。
つまり、人は何かを得る時よりも、何かを失う場合の方に強く反応する。