世界経済には無数の深い断層線がある。国際社会が統合され、経済が統合されている今日では、個人投資家や企業にとって最善であることが、システムにとって最善であるとは限らない。そのことが断層線を広げていった。重大な断層線の中には、経済ではなく政治に責任があるものもある。

世界経済に生じる断層線には次の3つの要因がある。

①国内政治、特にアメリカの国内政治のひずみから生まれる。
②これまでの成長パターンによって生じた多国間の貿易不均衡から生まれる。
③貿易不均衡を是正するため、透明性の低い金融システムが、透明性の高い金融システムに資金を供給した場合に生まれる。

こうした断層線が金融セクターに影響を与え、危機をもたらす。

すべての人に質の高い教育を受ける機会が与えられないことから、所得格差が拡大し、それが住宅ローン拡大の政治的圧力となった。その圧力は、金融セクターのローンを歪める断層線を作り出した。

政治家は非富裕層にも住宅取得のチャンスを提供しようとするが、政策を民間セクターを通じて実行する場合、意図せぬ深刻な状況を引き起こす場合がある。優良層に注力し、サブ・プライムローンを組成する手段を持たなかった金融機関は、これを証券化し、融資を拡大していった。結果、今回の金融危機の発端となった。

ドイツや日本などの成長し豊かになった輸出国でさえ、成長過程で国内需要を作り、バランスの取れた経済発展に結びつけることができなかった。輸出に依存した国は、世界中に商品を供給し、発展途上国はこうした商品を受け入れることで、貿易赤字を計上し、財政危機に陥った。

また、輸出国の外貨準備高も増えた。こうした資金も世界中に行き場を求めた。資金を引き寄せたい国は、国内生産業者が作り出す以上の資金を使おうとした。

アメリカもまた他国より資金を集め、世界の消費者の役割を引き受けた。これは、雇用なき回復とそれに対応できないセーフティネットによる政治的圧力によるものであった。

政府は、雇用が元に戻るまで積極的に景気を刺激しようと大規模な財政政策を実施した。FRBは金融緩和政策を維持したことで、融資は増え続け、やがて質は低下した。アメリカは世界が求める需要を作り出したが、バブルを生み崩壊した。

住宅クレジットを促進して雇用を増やしたいという政府の願望には、暗黙の保証が埋め込まれていた。それを利用した金融セクターが過度なリスクを取り倒れた。

様々な問題は、民間セクターと政府との接点で生じている。金融セクターの改革にあたって重要なことは、政府は介入しないと想定して、民間セクターが価格リスクを適切に定めるように仕向ける方策である。