人間は不合理である
私たちは、人間が客観的、合理的で、しかも論理的な存在だと考えたがる。お金を投資したり、家を買ったり、子供の学校を選んだり、治療法を決めたりする時には、大抵自分の選択が正しいものと思い込んでいる。
確かに正しいときもあるが、認知バイアスのせいで、誤った方向に導かれることもある。特に重大で、困難で、苦しみに満ちた選択をしなければならない時がそうである。
私たちは「授かり効果」と「損失回避」という2つのバイアスで、自分の持っているものを過大評価し、それを失うことを損失とみなす。損失は心理的な苦痛を伴うから、何かを手放すには、かなりの踏ん切りが必要となる。
また、私たちは一般的に、物事をそのままにしておきたいと考える傾向「現状維持バイアス」の影響を受ける。これは、将来がどうなるかについて、ほとんど情報が得られないからである。
私たちはみな、数々の厄介な意思決定バイアスの影響にさらされているため、大きな決断を下すのが難しい。私たちはいろいろと不合理な行動をとるが、これは2つの教訓と1つの結論に要約できる。
①私たちには、不合理な傾向がたくさんある。
②私たちは、こうした不合理性が自分に及ぼす影響を、自覚していない事が多い。
つまり、自分が何に駆られて行動しているのか、よくわかっていない。
だからこそ、私たちは、直感を疑ってかかる必要がある。自分の直感に疑問を投げかけるには、実験することが大切である。
しかし、不合理な側面には、私たちを極めて人間らしくしているものもある。例えば仕事に意義を見出す、自分の作品やアイデアにほれこむ、他人を進んで信頼する、新しい環境に慣れる、他人を思いやるといった能力などである。
完全に合理的であろうとするよりも、自分のためになる不完全な面を大切にし、克服すべき面を明らかにすることが必要である。その上で、限界を克服するような方法で、身の回りの世界を設計すべきである。
バイアスの影響を受ける事例
・仕事に意味があるかないかで、モチベーションに大きな違いが生じる。
人間のモチベーションは複雑で「金のために働く」といった短絡的な関係に単純化できない。
・労力をかけて何かをこしらえると、その作品に愛着を感じ、過大評価してしまう。
・自分で生み出したアイデアには愛着を感じ、高く評価してしまう。
愛着が過ぎると、他人の優れたアイデアを排除してしまう恐れがある。
・人は大抵の場合、誰だか知らなくても、進んでお互いを信頼し合おうとする。
そして信頼を踏みにじられた時、本能により無礼な相手に報復しようとする。
・人生を変えるほどの大きな出来事にも、人はいつか順応する。
なお、順応するプロセスを中断すると、順応が遅くなる。