帝国ホテルの様々な部署で働く仕事人30人のインタビュー。その仕事観を描く。
総支配人
総支配人は、宿泊客のコメントレターにはすべて目を通すことから、味噌汁の量の加減に至るまで目配りをする。そのために、常に現場に足をはこび、客がどのように楽しんでいるかを感じ、それをヒントにプランを思い浮かべなければならない。
総支配人の定保氏は、客室のトイレ掃除、荷物持ち、ベルマン、皿洗いなどの下積みを経て、今のポジションに至る。四半世紀前に「将来は帝国ホテル総支配人」と答えたのが現実になっている。
総料理長
料理長は、コストに関係なくとにかくうまいものをつくるアーティストのような存在。一方、調理部長は残業や従業員の数などを頭に入れ、コストを管理する役目。その相反する2つのポジションを兼務してきた。料理長の田中氏は、帝国ホテルのスケジュールに入った食事会のメニューを常に頭に入れて過ごしている。そのメニューが浮かぶ時は電車の中であったり、釣りの時であったりする。
下積み時代やフランス留学などの経験など様々な積み重ねが料理長を作り上げた。
客室課マネジャー
帝国ホテルは、海外からのお客様をもてなす迎賓館として開業した。その伝統や精神を代々先輩から受け継いでいるのが帝国ホテルのスタッフ。客室課マネジャーの小池氏が到達したのは「お客様は十人十色ではなく、一人十色」という境地。
客室課の最重要の仕事は掃除。前泊の客の痕跡を一切残さないのが鉄則であり、これが「おもてなし」の大前提である。においを完全に断ち切る、窓の指紋、壁のシミ、カーペットの汚れ、時計の針の狂いなどをチェック。バスルームではバスタブに実際に体を横たえて、汚れを探す。トイレ掃除は小池氏の新人時代はヘチマでごしごし磨くことを教わったという。
ドアマン
ドアマンは、お客の顔と車両番号、運転手さんの顔などを覚えておかなければならない。それを認識していれば、この人はどの宴席に、ということの見当がつきサービスがしやすい。新聞や雑誌に載ったゲストの写真を切り抜き、控え室で回覧したりする。書いて覚えたり、お経のように唱えたり。
また、帝国ホテルのドアマンは、ポケットに千円札と五千円札を用意していて、釣り銭の用意がないお客に両替するのを習慣にしている。
フロント
最も大変な仕事は客室の割り振り。約1000室ある部屋を団体客に不満が生じないとうに割り振りしたりしなければならない。また、チェックインの会話の中で、記念日といった情報を得たフロントは、少し広い部屋にするといった心遣いもしている。
仕事人たちは、代々先輩から伝統と精神、帝国ホテルというブランドを受け継いでいる。仕事に対する意識の高さとそこで鍛えられた人としての魅力が帝国ホテルの不思議を醸し出している。